婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?㉙ ~東京カレンダー風
婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?㉙ ~東京カレンダー風

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?㉙ ~東京カレンダー風

公開日:2026.2.21

36歳、早稲田大学卒

大手メーカー勤務 

スラッと背が高くロングヘア チナミの婚活日記


前回のアーカイブ

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?

翌朝、カーテン越しの光で目が覚めた。


昨夜の沈黙は
眠っている間にすべて消えてくれるものではなかったけれど
胸の奥でざわついていた音は、少しだけ小さくなっていた。

スマホを手に取る。

通知はひとつ。


佐々木さんからだった。


「おはよう。
昨日の話、ちゃんと考えてた。
今日、少し時間ある?」


短い文章。
絵文字も、余計な言葉もない。


不思議と、
胸の奥に残っていた重たいものが
すっと位置を変えた気がした。


午後、待ち合わせたのは
麻布のレーベルカフェだった。


緑に囲まれて都内とは思えない穏やかな雰囲気だ。


休日のわりに静かで
コーヒーを淹れる音だけが一定のリズムで流れている。


「急に呼び出してごめん。」


彼はそう言って、先に頭を下げた。


「昨日、帰ってから
チナミさんが言ってたこと
ちゃんと考えてみたんだ。」


取ってつけたような
“考えたふり”ではないことは、すぐにわかった。


言葉を探す前に
彼は一枚の紙をテーブルに置いた。


手書きのメモだった。



住む場所の候補
通勤時間
家賃の目安


小さく書かれた一文。


”緑がある場所”


「これ、昨日の夜に書いたの?」


「うん。
仕事終わってから、ちょっと調べてみた。」


彼は少し照れたように笑った。


「正直、最初は“便利なほうがいい”っていう自分の基準しかなかった。
でも、チナミさんが“落ち着く”って言ったのが
なんか頭から離れなくて。」


胸の奥で何かがすっとほどける音がした。


「無理に合わせるつもりはないよ。
ただ“どっちかが我慢する”形にはしたくないなって思って。」


昨日までの違和感の輪郭を、そっと溶かしていった。



「わかってるよ」と言うことは簡単だけれど
「動く」ことは案外少ない。


彼は
説明もしすぎず
押しつけもせず
ただ一歩前に出ていた。


それが胸に残った。


「ありがとう。」


そう言った声が
少しだけ震えていたことを
彼は気づいただろうか。


「こちらこそ。
言ってくれて、ありがとう。」


その返事があまりにも

自然で
スマートで。


その瞬間
ふっと思った。


「一緒に考えてくれる人なんだ。」

帰り道、影の長さは違うけど
並んで歩く速度がいつの間にか揃っていた。


何か特別な約束をしたわけでも
答えを出したわけでもない。


それでも
不安が消えた理由ははっきりしていた。


言葉ではなく態度で示されたからだ。



結婚はロマンなんかじゃなくて現実だと言われる。


でも私は思う。


現実に向き合う姿勢こそが
いちばんロマンチックじゃないかなと。


夕方の空は
派手でも劇的でもなかった。


それでも
雲の隙間から差す光がちゃんと前を照らしていた。


この人となら
迷いながらでも
進めるかもしれない。


そう思えたことが、
今の私には、何よりの安心だった。



これまでのアーカイブ

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?①

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?②

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?③

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?④

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?⑤

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも⑥

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも⑦

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも⑧

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも⑨

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも

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婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?⑮

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婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?㉖

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