婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?㉘ ~東京カレンダー風
婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?㉘ ~東京カレンダー風

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?㉘ ~東京カレンダー風

公開日:2026.2.3

36歳、早稲田大学卒

大手メーカー勤務 

スラッと背が高くロングヘア チナミの婚活日記


前回のアーカイブ

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?


その夜、チナミは早めにベッドに入った。


部屋の灯りを落とすと
昼間の雑貨店の照明よりもずっと静かな暗闇が広がった。


天井を見つめながら
スマホは手に取らなかった。

通知が来ていないことを
確認する勇気がなかったわけではない。

ただ、
今日は「来ない時間」を
そのまま受け止めてみたかった。

昼間の彼の声が
断片的に思い出される。


「広めのリビング」
「都心寄り」
「現実的に考えると」


どれも正論で
どれも間違っていない。


なぜだろう
胸の奥で小さく鈍い音が鳴る。


私はどこに立っているんだろう。


佐々木さんの描く未来図の中に
私はちゃんと「私の形」で存在しているだろうか。


それとも
無意識のうちに
配置される家具のようになっているのだろうか。


答えは出ない。


出ないからこそ
とめどもなく考えがかけめぐるのが止まらない。


ベッドサイドの時計が
感情とは無関係に
淡々と時を刻んでいた。


カチッ、カチッ

時間は進むのに
心は同じ場所をぐるぐる回っている。


ふと
「沈黙」という言葉が浮かんだ。


今日一日
ふたりは決して無言ではなかった。


会話もあったし
笑顔もあった。

それでも
言葉と気持ちの間に
見えない壁のような沈黙があった気がする。


破れない壁。
薄いけれど確実に存在している。


それはたぶん
不満でも拒絶でもない。


「揺らぎ」

そんな言葉が
いちばん近い気がした。


未来を真剣に考え始めたからこそ
生まれる
ごく自然な揺れ。



ブルブルッ


ベッドわきのスマホが小さく跳ねた。


心臓もビクッと一瞬跳ねた。


佐々木さんからだ。


「今日はありがとう。
いっぱい歩いたね。
ちゃんと話せてよかった。」


短くて
丁寧で
彼らしい文章。


チナミはすぐに返信できなかった。


よかったと思う気持ちと
どこか躊躇してしまう自分がいた。


しばらくして
ようやく打ったのは


「こちらこそ。
今日は少し疲れたけど楽しかった。」


送信。


嘘ではない。
でも、全部でもない。


画面を伏せ
深く息を吸う。


沈黙は怖い。


沈黙があるからこそ
自分の本当の音が聞こえる気もする。


今夜は無理に答えを出さなくていい。


結論を急がなくていい。


この小さな揺れは
なかったことにはしないでいよう。


窓の外から遠くの車の音が低く流れていた。


それは
誰かの生活が
今も続いている証のようだった。


チナミはそっと目を閉じた。


沈黙の夜は
静寂をたたえ
確かに次の朝へとつながっていた。


揺れているのに
離れたいとは思っていない自分がいた。




これまでのアーカイブ

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?①

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?②

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?③

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?④

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?⑤

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも⑥

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも⑦

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも⑧

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも⑨

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも

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婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?

婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?⑮

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婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?⑱

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婚活日記 お見合いは続くよどこまでも?㉖

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