忘れられないひと言
忘れられないひと言

忘れられないひと言

公開日:2022.12.27

初恋の人が何年も忘れられずにウダウダしていた私の話は何度か書いているけれど
何もせず手ぐすね引いていたわけではない


社会人になって初恋の彼の所在を同級生を通じて突き止めた

インターネットは一般的でなかった20年以上も前なので

アナログでツテツテツテで判明


執念と根性論


たまたま共通の友人の結婚式があり

結婚式の司会を頼まれた


司会を引き受ける代わりに

こっそり彼も2次会に招待してもらえるようお願いした


今考えると何ちゅう取引条件かと思うが

友人は「お安い御用」とその条件をのんでくれた



2次会で彼を見かけて

「うわっ、本物だ」と息が止まるかと思った

かっこよさは相変わらず


要領よく隣の席に割り込んで話しかけた

あまり集団で話すのが好きでない彼を知っていたので

「こっそり飲みにいかない?」と誘って

静かに2次会の会場を出た


ちょっと歩いたお店に入り

目の前で屈託なく笑って話してくれる姿に

「これって現実なのだろうか?」

夢みたいで倒れそうな気持ちを抑えるのが精一杯だった


しかし、彼女がいて結婚が近いらしいとの情報はキャッチしていた、、、


「次はカラオケでも行こうか?」と再び店を出て歩いていると

ふっと手を引っ張ってくれた


えっ、まさかの手つなぎ??


「これって付き合ってくれるってこと?」

とまだ20代の駆け引きのわからない私は直球で聞いてしまった


「あっ、調子にのりすぎた。ごめん」と彼


夢から覚めて現実に引き戻されたとはこのこと


あまりに切なくて

「一つ聞いていい?私のこと好きなことあった?」

と聞くと

「うん」とうなずいてくれた


もしかしたら優しさでそういってくれたかもしれないけれどちょっと嬉しかった


と同時に


自分が過去形であることを思い知らされて愕然ともした


「ありがとう」と言って手を振って

振り返らずに私は帰った


実はぽろぽろと涙が止まらなかったので振り返ることができなかった


その時の「うん」はのちのちじわじわとボディブローのように効くことになる


早く告白しておけば初恋が成就していたのだろうか?

余計な事言わなければ手をつないで歩けていたのではなかろうか?


その後長らくもどかしい後悔にさいなまれたのだが

彼には何の罪もない

bokeh photography of street



かと思うと夫の忘れられないひと言は

「新婦の第一印象は?」と結婚式の打ち合わせで司会者に質問されて

「変な顔ですね」と答えたひと言である


殴ってやろうかと思ったけど

何度思い出しても笑える

three persons sitting on the stairs talking with each other


そしてふと思い出すのは

大学のサークルの先輩が唐突に

「俺お前の文章好きなんだよね。ずっと書き続けろよ。」

と言ってくれたこと


生まれてすぐに七歩歩いて「天上天下唯我独尊」とつぶやいたという釈尊くらいの驚き?は大袈裟だけど


特段仲がいいわけではなかったのに唐突に言ってくれたあのひと言が

今この瞬間も私を鼓舞し続けてくれている



恋愛であろうがなかろうが

誰かを傷つけるではなく

勇気を与える言葉を発せていたらそれって素敵


誰かに勇気を与える忘れられないひと言をいつかつぶやけることがありますように

*1 天上天下唯我独尊 :てんじょうてんげゆいがどくそん